４７．ぼやける境界──メーカー・卸・個人の再定義

近年の物販市場では「メーカー」「卸」「個人問屋」という

立場の境界が急速に曖昧になっています。

この曖昧化は単なる役割の混在ではなく信用の置き場所が揺らいでいることが本質です。

以下では①市場構造の変化 → ②行為の意味の変化 → ③信用の再構築 → ④総合考察という流れで、現代の商流を整理します。

■ 1. 社会構造の変化──「販売資格のない商人」が増えた

2010年代後半、日本には「販売の担い手」と呼べる存在が一気に増えました。

かつて、商人とは仕入れ・在庫・取引先・販売ルートを持ち、それを運用できる者を指していました。しかし、

・メルカリ

・BASE

・SNS販売

・ライブコマース

といったプラットフォームが登場したことで、

取引構造を持たない“販売行為だけを行う個人”が商流の内側に組み込まれたのです。

その結果、商流は次のように多層化していきます。

旧来の構造 新しい構造

メーカー → 卸 → 小売 → 消費者 メーカー → 卸（小売） → 消費者（直販）個人 → 消費者（再販）個人 → 個人（転売・再流通）

つまり、

本来“取引の主体ではなかった個人”が販売行為を通じて市場の内側に入ってきた

というのが最初の変化です。

■ 2. 行為の意味の変化──“売る”が「社会的発信」に変わった

販売行為そのものが、経済活動から社会的表現へと意味を変えました。

以前：仕入れて売る＝商売現在：紹介して売る＝発信

この転換を後押ししたのは、

・フォロワー数

・レビュー

・発信の透明性

・ライブ配信による“人格の可視化”

など、「誰が売っているのか」が徹底的に見える化したことです。

つまり販売者はもはや「流通の一部」ではなく、

「消費者と価値観を共有するメディア発信者」として評価されるようになりました。

メーカーも同様に、“B2Bの取引先を探す”のではなく、“自社商品を発信できる媒介者を探す”という発想へ移行しつつあります。

■ 3. 信頼の再構築──“仕組みの信用”から“人の信用”へ

信頼の基準もまた、構造的な信用（会社・取引年数）から、個人の一貫性や人格に依拠する信用へとシフトしています。

この変化が「個人問屋」「SNS卸」「個人メーカー」的存在を後押ししましたが、同時に問題も生みました。

信用が分散しすぎると、ブランド毀損が起こりやすいのです。

・価格崩壊

・コピー商品流入

・グレーな再流通

・KOLの演出リスク

・メーカーの意図と異なる見せ方

これらはすべて末端の販売者をメーカーがコントロールできない構造が原因です。

■ 4. 総合考察──境界線は「役割」ではなく“信用をどこで一元管理するか”へ

ここ10年の変化を総合すると、メーカー・卸・個人問屋の境界線は、「役割」ではなく“信用の起点をどこに置くか”で決まるようになりました。

一覧で再整理するとこうなります。

この構図から導かれる結論は明確です。

● 結論

“末端の販売者が増えるほど、信用は薄まりブランドが不安定になる。したがって商流は、メーカーが販売まで一元管理する方向へ収束していく。”

人格による信用は強力ですが、ブランドの説明責任はメーカーにしか果たせないためです。

今後の境界線は

「誰が売るか」ではなく、

「誰が信用を一元管理できるか」

そしてその役割を担えるのは、信用の起点であるメーカーしかいません。